余計に怖くて…、苦しくて。


前を向くコトなんて、出来ないよ・・・



その先に待つモノに、恐怖心だけが先行するのに。




すると近くで、絨毯が深く沈む感触を覚えた。


きっと社長が、近くにいるのだと思う。



この甘い香りが、その証拠だから・・・




「蘭・・・

オマエは変わらないと、以前言ったよな?」


「っ・・・」


思いの外、近くで聞こえた清涼な声。


それは淡々としていて、それでいて鋭さを秘めている。



だからこそ、次に訪れる言葉が怖いの。



“イラナイ”の一言を、待つ身だから――



溢れる涙を止められず、ギュッと眼を固く瞑ると・・・





「本当に、結婚するつもりか?」


「・・・え?」


思わず声が漏れると、あれほど拒んでいた顔を上げてしまう。



「ッ・・・」


それまで、気づかなかった。




社長がすぐ隣で、ジッと見ていたなんて・・・