遅かれ早かれ、言わなければならない。



それでも事実を伝える辛さに、心は押し潰されそうで。


ボヤけそうになる視界を、どうにか保っていた。




すべてを伝えられない、もどかしさ。


想いを封印したままの、息苦しさ。



それらの対処で、私は一杯だったというのに――





「数日前に会ったヤツと、もう結婚?

蘭、オマエ一体どうしたんだよ?」


フッと冷笑しつつ、運転を続ける社長。


その清涼な声色が、私の言葉を失わせていく。



「・・・・・」


何も言えなくて、サッと視線を下へと向けた。




「っ・・・」


昨日は求めていた、ホワイトムスクの香り。


蘭と呼んでくれる、甘くて爽やかな声。




東条 拓海という、人物のすべて・・・


それらに縋って、後藤社長から逃げたかった。




なのに今日は、社長から逃げたいよ。



直面した辛楚(シンソ)さに、心が折れそうなの・・・