でもね、道はただひとつ――
未来なんてもう、捨てたのだから・・・
「っ、バイバイ・・・」
朝のやり直しのように、再びサヨナラを呟いた。
ガチャッ――
玄関のドアを、一気に開け放った先には。
「遅いぞ、蘭・・・」
家の前で停めた、車の助手席のドアに凭れつつ。
至って平素な社長が、無表情に構えていた。
「も、申し訳ございません。
態々、お越し頂くなんて・・・」
玄関のドアを閉めるなり、平身低頭状態の私。
顔合わせを心配していたのに、取り越し苦労だったらしい。
頭をゆっくり戻すと、既に社長は運転席へと乗り込んでいた。
「乗れ、行くぞ――」
端正な所作で、佇む私を促してくる。
「っ、はい・・・」
カバンを持つ手に力を込めてから、歩いて行くと。
震える手で、助手席のドアに手を掛けた。
今日は唯一、幸いしたコトがあったの。
それは社長の車が、アウディだったから・・・