手に力を込めて開けた、ドアの向こうには。
顔を引き攣らせる母が、仁王立ちで構えていた。
「ホントに…、何やってるの!?
秘書が社長をお待たせするなんて!
それ以前に、アンタはっ・・・」
「・・・ゴメンッ――
社長待たせてるから行くね!」
「っ、もう――!」
憤慨する母を尻目に、一目散で階下へと向かった。
母が発する続きを、耳にしたくなかったの。
“佐々木の娘が、東条様を・・・”
いつもと同じく、そう続くハズでしょう?
母から逃げるように、玄関へ来たけれど。
その場で、二の足を踏んでしまいたい。
ドアの向こうには、本当の受難が待っている――
このドアを開けた瞬間、タイマーが入るから。
後藤社長との結婚へのステップと。
社長との縁が切れる時限が、作動してしまう。
別れなんて、イヤなのに・・・
「っ・・・」
それでもリングが、チラリと視界に入る度。
私の戯言は、一蹴されてしまう。