車外へ出て見上げると、立派な外観に気後れした。



どうみても、私が立ち入るような所ではナイ。


そう思って、佇んでいると・・・



「行こう、蘭?」


「え、あのっ・・・」


グイッ――

肩に手を回して、歩み始めてしまう。



結婚相手に対して、当たり前の所作だと思う。


・・・頭では、分かっているの。




「っ・・・」


だけれど、どうしても心が拒否してしまう。



“この手じゃナイ”と表すように、嫌悪感を覚えてしまう。



アノ手の温もりと、大きさ・・・


近づく度に掠める、ホワイトムスクの香り・・・



それらを頼りに、拓海を求めているようで――




もう別離への道が、着々と出来上がっているのに。



どうして頭と心は、上手く噛み合わないの?




感情を失くしてしまえたら、楽なのに。




私は社長に、別れを告げられる・・・?