そんな私を乗せて、車は静かに発車した。
久々に別の人の運転で乗って、初めて分かる。
社長の運転の上手さと、滑らかなハンドル捌き。
決してスピードを出しすぎず、走行はスムーズで。
さすが、車に拘るだけありますね?
私はあと何回…、乗せて貰えるのかな――
「蘭・・・?」
「・・・あ、すみません!」
「フッ、いいよ」
「っ・・・」
そうして一笑されてしまうと、何も言えない。
何度となく、呼ばれていたようだけれど。
同じメルセデスが、私を呼び覚ましてしまう。
アノ車には、もう乗れなくなる・・・
ぐるぐると頭の中を駆け巡るのは、ソレだった。
ううん…、初めから婚約者のモノであって。
妾の私は、蚊帳の外なのに・・・
本来乗るべきヒトの席を、奪っていただけなのに・・・