泣き顔を見れば

抱きしめてやりたくなるし、

笑顔を見れば、

こっちまで幸せになる。

別れ話の相談をされれば、

心は揺れる。

もう、隠せなかった。

苦しくて、切なくて。

「ん、悠くん…?」

「愛ちゃん?平気?」

「うん、ごめんね…。」

ようやく、愛が目を覚ました。

けれど目はうつろで、

まだ少し放心状態なようだった。

「謝る必要ないよ。

 愛ちゃんは、悪くない。」

ぎゅう、と

そのか細い身体を抱きしめた。

「悠くんが来てくれて、

 よかった……。」

そういって、愛は涙を流した。

安心したのか、

一気に涙腺が緩んだらしい。

ブラウスからのぞく首もとの

キスマークが痛々しかった。

「すごく、怖かった。

 本当はね、

 あんな人じゃないの…。」

分かる気がした。

愛は、優しいのだ。

誰にでも、優しい。

どんなときも、優しい。

だから、困る。

別れるときでさえ優しいのだから。

最後くらい、大嫌いだと

罵ってくれればいいのにと、

自分でもそう思うから。