そして、約束の2時。

善彦は遅れることなく、

むしろ愛が行ったときには

既についていた。

「公園なんかで

 よかったんですか?

 言ってくれたら、

 お店を予約したんですが。」

「いいえ、ここでいいです。」

ふわ、と優しい笑みを

こぼしていた善彦も、

愛の深刻そうな表情に、

何かを感じたらしかった。

「婚約解消させてください。」

「……え…?」

いきなりの愛の発言に、

善彦は呆気に取られていた。

「そんな、急に…。

 冗談が過ぎますよ、愛さん。」

「冗談なんかじゃないです。」

愛はエンゲージリングを

自分の指から抜いて

善彦に返した。

「他に好きな人でも…?」

「それも、あります。

 でも、それだけじゃない。

 いつまでも敬語だし、

 私は善彦さんと普通の

 デートなんてしたことない。

 高いお店なんかより、

 その辺を散歩しながら

 話すほうが、よっぽど

 楽しいです。」

まだきっと、

やりなおそうと思えば

やりなおせるだけの

愛情が私の中にはある。

けど、私は気付いてしまったから。

私の中に眠る、

もう1つの感情に。