部屋は1LDKで、小綺麗に片付けられていた。片付けられるというよりは物があまり無いという感じだ。

「殺風景な部屋~」
言った瞬間、桜香はハッとした。
桜香は思ったことをすぐに口にしてしまう。
「よく言われるよ。でも、物を減らしたいってわけじゃなくて、物が増えないんだ。欲しい物がないっていうか」
俊は機嫌が悪くなるどころか機嫌が良いように感じた。

「失礼なこと言ったから、怒られるかと思った」

「お前の言うとおり殺風景だからな。怒るにも怒れないよ。そんなことより夜飯食った?」

「…ううん。ずっとベンチに座ってたから…」

「そっか。じゃあ飯食うか」

「わざわざそんなことまで…」

「気にすんな。俺も飯食ってないし。ただし条件がある。」

「…条件?」
桜香は少し不安になった。条件って…

…一瞬の間




「お前、飯作って」

「…?え?私が?」

「そう。お前が。たまには手料理とか食べてみたいし。」

俊の意外な答えに驚いた。案外、普通の人なのかも…

「私、料理、凄い下手だよ?いいの?」

「…あぁ。下手でも一生懸命ならそれでいいよ」

俊は思い出していた。あの夏の彼女が作った下手くそな料理を。