風呂から上がると俊はソファーで本を読んでいた。

一瞬声をかけるのをためらったがずっと喋らないわけにもいかない。

「…真剣な顔して何読んでるの?」

俊はよっぽど集中していたのか少し驚いた。

「上がってたのか。小説だよ。そんなたいした本じゃない。」

そう言って俊は小説をソファーの横の小さな本棚にしまった。

「そろそろ寝るか。」
「…うん。」
私は今、普通の顔をしているだろうか。
何故か泣きそうな自分がいる。
俊には、さっき考えていたような事を悟られたくないと思った。
あの人は客で私は…


ベッドルームにはリビング以上に物が無くて、セミダブルのベッドが壁にくっついて1つあるだけだった。

「俺、寝相悪いから壁側に寝るわ。眠くなかったらリビングでテレビとか見ていいよ」

「…ううん。寝る。」
ベッドに入ると俊の香水に匂いがした。

「おやすみ」
そう言うと、こちらに背を向けて俊は寝の体勢にはいった。

時間が過ぎてゆく。
俊が動く気配はまったくない。

この人は何もしないのにお金を払ったのだろうか。
そんなことを考えていると、突然、俊が口を開いた。

「起きてる?」

やっぱり…

「うん。起きてるよ。」