と言おうとした瞬間だった。涼香はペダルを強く踏み込み、坂道を一気に下りだした。

慌ててあとを追う。

一生懸命こいで、涼香と並ぶ。

「おい!俺はまだ行くとか言ってないぞ!」

「そう?でも、もう坂道下っちゃったね」
笑顔で涼香が答える。

その笑顔が美しすぎて見とれそうになる。

「でも学校が…」

「もう一回あの坂道を登るなんて、罰ゲームだわ!私、すっごい観たい映画あるの!私の説明を聞いたら渡部君もきっと観たくなるわ」

そして、涼香は勝手に映画の説明をしだした。

映画館に着くまでその説明は続き、僕も自然とその映画を観たくなってしまった。
相づちをうつ程度でまともに喋ることはできなかったが。

映画館の中はヒンヤリしていて、それだけで映画代を払った価値があるようにさえ思えた。涼香は席についと、さっき買ったジュースを頬に当てながら、幸せそうにしている。
僕は何を喋ろうか考えながら涼香と目を合わせないようにしていた。

そうしているうちに、幕が降り、室内が暗くなった。
そして、新作映画の宣伝が始まり、涼香はスクリーンに釘付けになり、僕は涼香の方を見たり、スクリーンを見たりを繰り返した。