……まいったな。

「ずいぶん偉そうね。あの子が貴方の新しいご主人様って訳?」

「まあね」

「あんな子、貴方には相応しくないわ。私のほうが―――――――」

「オレに相応しいって?」

「そうよ! 私の何処が不満なの? 容姿だって、学力だって、他の女に負けないわ。貴方にだって、色々便宜を図ってあげたのに。
 私に何も言わずに居なくなるなんて……!」

 千沙子の目には涙が滲んでいる。

「不都合があったから辞めた。言えばそうやって引き止められるから言わなかった。それだけだ」

 できるだけ冷たい口調で、突き放すように言った。

 こいつのことは嫌いじゃない。
 だからこそ、辞めた理由は言えなかった。