「でもまさか、あの人が織葉さんの元彼だったなんてなぁ。」
「またその話?」
もういいって、と呆れたように笑うと
おきちゃんは手に持っていた解説テキストを胸に抱いて、あたしの顔を覗き込む。
「だけど、織葉さん本当変わりましたよね!」
「ええー?どこが?」
「ん~、何か柔らかくなったって言うか何て言うか…角が取れたって感じ?」
「ちょっと、それどうゆう意味よ!」
きゃーっと逃げるおきちゃんに
怒ったフリをしながら
「いいから仕事しなさい!」と言って、あたしも自分の仕事に取り掛かった。
…あの日。
過去と向き合う決意をして、あたしは陽平と話をした。
彼は全てを
包み隠さずあたしに話してくれた。
梨絵さんとは親が決めた婚約だった事。
それを条件に、あのレストランで役職をつけてもらっていた事。
本当は、彼女ではなく
あたしを“愛していた”と。
『ずっと、言おうって思ってたんだ…。でも…、』
そう、陽平は。
あたしとの未来よりも
安定を約束された彼女との未来を選んだ。
いや、選ばざる得なかったのだ。
多額の借金を負った家族の為に。
自分を犠牲にするしか、方法がなかったと陽平は言葉を詰まらせ言った。
そして、最後に陽平があたしに伝えた言葉は―――。