「…オリ?」
声を掛けられたけど、あたしは目を開けなかった。
というよりも
まどろみと現実の狭間で揺れていたあたしは
返事をする事さえ面倒だったのだ。
どうせまだ修理は終わらないだろうし
終わったら彼方が起こしてくれる。
そう思いながら
再び夢へと堕ちていこうとした、その刹那。
ギシ、っと座席が鳴り
寄り掛かっていた背もたれが揺れる。
そして―――――。
触れたか触れてないかもわからない程の感触が、唇から伝わって来た。
それは、悲しいくらい優しい
彼方からのキス。
もう、これが夢なのか現実なのかわからない。
だけど、唇に残った温もりは確かに現実だった。