実はまだ、天塚さんの事は彼方に話していなかった。
あんな事があった手前、何となく彼方には言いづらくて。
「…ん、まぁ。」
と言葉を濁したあたしに
彼方は「そ。」とだけ呟き、再び機会をいじり始める。
ここ最近、仕事帰りに天塚さんに会う事が多いあたし。
彼方は彼方で
研究に追われ、顔を見せる事も少なくて。
こうして二人で営業時間外にドームで過ごすのは本当に久々だった。
だからなのか。
何だか上手く会話が出来ない。
投影機がこの調子じゃ、彼方に上映してもらえそうにもないし…。
かと言って
外は相変わらず梅雨特有のどしゃ降りだし
そんな中、帰る気にもなれない。
暇を持て余したあたしは
彼方が機械をいじる音を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。
『…ね、天塚さん。』
『ん?どうした?』
タバコを吸いながらハンドルを握る彼に、信号待ちを狙って尋ねてみた。
昨日の夜
仕事を終え、外に出ると
すでに天塚さんは車の中であたしを待ってくれていて。
小走りに車へ駆け寄り
助手席に乗り込んだあたしに、天塚さんは笑って迎えてくれた。
窓ガラスを叩く雨は
右往左往に動くワイパーに弾かれる。
だけどすぐに視界は雨に覆われ、見える景色を濡らしてゆく。
昨日の雨は、今日よりも酷かった。