足音が止まる。
それはあたしが先だったか
彼方だったかは定かではない。
気が付けば、雨は止んでいた。
「……笑っちゃうでしょ。」
だけど、二人とも傘は差したまま。
あたしは彼方の背中に向けて、独り言のように話続ける。
「二股してた陽平も陽平だけど、ずっと気が付かなかったあたしも相当バカだよね。」
自嘲的に吐き出し
傘を持っている手に力を込めた。
思い返すだけで
胸が張り裂けそうに痛む。
それでも、彼方は何も言わなかった。
―――好き、だった。
すごく、すごく好きだった。
騙されていたとしても
全てが嘘だったとしても。
あたしが陽平を想っていた月日は、そう簡単に捨てられるモノじゃなかった。
だから、あたしは逃げたんだ。
“さよなら”も告げず
かと言って、責める訳でもなく
ただ、逃げたの。
そして、風の噂で聞いた陽平と梨絵さんの結婚。
涙はとうに枯れていた。