「笹原さんも、お疲れさま!」
「あ…お疲れさまです、」
だけど、あたしはこの人が苦手だった。
斜めに下ろされた前髪に
少しカールした艶のある髪を、ちょうど右の耳元あたりでくくって。
整えられた指先、華奢な手首に光るブランド物の時計、そしてブレスレット。
すらっとした長身に
一度も崩れた事なんて見た事ない、完璧な横顔。
自信に満ち溢れた彼女は
どこからどう見ても抜かりない女性だった。
同姓として、劣等感さえ感じてしまう程。
みんなは、そんな彼女に憧れ
梨絵さんを慕っていたけれど、あたしは挨拶を交わす程度で
どうも、打ち解けられなかったのだ。
でも、彼女を苦手な理由は他にあった。
梨絵さんは
見るからに陽平に好意を見せていて。
訪れる度に、さりげなく陽平に触れ、そして熱い視線を送っていた。
その梨絵さんの態度に気が付いていたあたしは、その姿を見ないようにいつも逃げ道を探して。
律儀に陽平の言いつけを守り
陽平との関係を口にしなかったあたしは
誰にも相談出来ないまま、醜い嫉妬心をひた隠しにしてた。
―――そう、2年間もずっと。