それは、あたしが18の頃だった。



あたしは高校卒業と共に、ある飲食店に就職。


その飲食店は
ホテルの一角に備えられた、高級フレンチのお店で。

少しだけ、ほんの軽い気持ちで
調理師という職業に憧れていたあたしは、そこで現実に叩きのめされたのだ。



数々のフレンチ料理、それに見合うワイン。

テーブルマナーや、基本用語。
専門用語に至ってまで、そこでみっちりしごかれた。


ホテルの中にある飲食店、というだけあってそれなりに人気もあったし
時間も遅番、早番と分かれていて

高校時代、好き勝手やっていた時とのギャップに
早1ヵ月弱であたしは『辞めたい』と友達に口走っていた。



それでも、あたしが辞めずに2年間働いていた理由は。




「織葉ちゃん。」

「あっ、長岡先輩!おはようございます!」

「おはよ。今日も頑張ろうね。」


―――長岡 陽平(ナガオカ ヨウヘイ)


紛れもなく、彼の存在があったから。




「今日は予約でいっぱいだけど、焦らず織葉ちゃんのペースでいいからね。」

「はい!いつもありがとうございます!」

「ははは、織葉ちゃんって可愛いな。」


紛れもなく

彼に恋を、していたから―――。