どのくらい
そうして歩いていたのか。
見覚えのある住宅街に差し掛かった頃、あたしはようやく口を開いた。
雨はまた少し
弱まったように感じる。
「…さっきの人…、」
「ん?」
「陽平…って言うんだけど…。」
そこでしばらく、無言が続いた。
この後に続く言葉を、彼方はきっとわかってる。
だけど、聞いて欲しかった。
彼方には。
彼方には、話してもいいと思えたんだ。
「…元彼、なんだ。」
「…………。」
「って言っても、5年も前なんだけどね!」
重たくなりかけた空気を取り繕うように、無意味に明るく振る舞ってみる。
そんなあたしに
彼方は口を開く事もなく、前だけを見ていた。
あたしはその背中に、思いの全てをぶつける如く続ける。
「簡単に言うと、あたしは彼の…陽平の“浮気相手”だったの。」
言葉と一緒に、熱い何かが目頭に込み上げて来た。