「久し振り。」
振り返った瞬間、目の前の人物はそう言って少し困ったように笑った。
何で、なんて聞くだけ無駄だと思った。
だって、偶然にしては
相手は落ち着きすぎてる。
それとも、着てるスーツがそう思わせるだけなのだろうか。
雨音が、二人の間を重たく通り過ぎてゆく。
あたしは何も言えずに
ただ視線を逸らして、彼を追い越した。
でも、逃げられる訳もなくて。
「織葉、」
「…放して。」
「ごめん、突然来て。でも俺、」
「放してって言ってるでしょ!」
掴まれた腕を振り払うと
彼は傷ついたような顔であたしを見ていた。
何よ…。
何であんたが傷ついてるの?
意味、わかんない。
「…とにかく、帰って。」
「織葉、話だけでも聞いて欲しいんだ。」
「仕事中なの。」
「じゃあ、終わるまで待ってる。」
「…え?」
聞き返して見上げると
彼は真剣な顔をして、もう一度言った。
「どうしても、話したいんだ。」