それは梅雨真っただ中の、6月中旬過ぎの事だった。
朝から地面を叩きつける雨は
客足を遠のけ、暇を持て余していたあたしは
受付で彼方から借りた天体の本を読み漁っていた。
って言っても
あたしには難しくてパラパラ捲ってる程度。
彼方がいつも、難しい顔して読んでいた理由がよくわかった。
「はぁ。」
パタン、と本を閉じて
手持ちぶさたになったあたしは、頬杖をつく。
そして、受付から見える外の景色に視線を這わすと
溜め息は更に色濃くあたしを憂鬱にさせた。
これじゃ、きっと今日はお客さんも来ないだろうなぁ。
来たとしても
多分雨宿り程度の気持ちで、星になんて興味ない人ばかりだろう。
てゆーか
こんな日だからこそ、星を見たいって思わない?
「って、そんな事思うのはあたしだけか。」
一人きりの館内で呟くと
それは一層寂しく聞こえて、あたしは受付を離れミュージアムに足を運んだ。
と、その時だった。
「…織葉、」
突然名前を呼ばれ、あたしの足が止まる。
だけど、すぐに振り返る事が出来なかった。
――あたしは、この声が誰かわかっていたから。