「おはようございます。七澤王子!」

後ろから肩を叩かれ振り返ると、にやにやとした下卑た笑顔を顔に貼り付けた逢沢にそう言われ、俺は朝から最悪な気分を味わった。

「……お前なあ」

「まあそんな顔しないで下さいよ。いやあ、意外ですねえ、今まで自分の評価につながることは何だってするのが会長でしたが、こんな恥ずか……失礼。劇の王子様役なんていうものをやるだなんて。本番が楽しみですねえ」

カメラで撮って差し上げますよ―そんなことを言いながら、堪えるように、喉の奥で笑う逢沢を睨みつけると、瓶底メガネの奥の切れ長の瞳と目が合った。

彼は柔らかい笑みを浮かべて続けて言った。


「素晴らしいことですよ。どうせ、会長が王子役をしているのを見たいだなんて安藤すみれに言われたんでしょう?」


その言葉に

またも対応が遅れ固まると、逢沢は目をキラキラさせて言った。



「本当に、貴重な存在ですね」