「足りない…」
俯いて、台本にため息を落とす。
初めて触れた安藤は思っていたよりずっと、細くて。もうそこには何もないはずなのに、腕はまだ欲していた。
あのとき。
衝動のままの行動を心の中では否定していたが、一度それを知った腕は意識に反して全くいう事をきかずに、何度も求めては掴んで離さなかった。
余裕の無い自分に、自分で呆れる。
まったく何時の間に、こんなに。
「七澤くん、どうしたの?」
背中に当ったその声に嫌な予感がしながらも後ろを振り返ると、視線の先、台本を手にした五十嵐亜美が、にっこりと笑っていた。