「お城とシンデレラの家の中、夜等、背景班は美術教室とA棟の二階の空教室で、その他の道具や衣装はB棟の資料室で作業をしましょう」
委員長のその言葉で、キャスト以外の裏方メンバーは各々の場所へと散った。
私が担当するのは、背景。
たまたま隣の席だった美術部員の国枝さんに誘われたのが、背景班になったきっかけだ。
「ご、ごめんね?何か私、一人じゃ手を挙げ辛くて…」
もじもじしながらそう言ってくる国枝さんに、私は笑って返した。
「いや。なかなか、絵というのも楽しそうだと思っていたから、丁度好かったんだ。ありがとう」
国枝さんは、目を見開いてぶんぶんと首を横に振って言った。
「そ、そそんな…!お礼を言うのはこっちのほうで!」
そんな国枝さんに、くすり、とまた笑み漏れる。
彼女は顔を真っ赤にして、暫く間を置いて、ひとつ短く息を吐いたあとにぽつりと呟いた。
「……よかったあ」
その声に私は首を傾げて、落ち着き無く泳いでいる国枝さんの瞳を捉えた。
「よかった?」
そう訊き返して、視線と視線が絡み合った瞬間、国枝さんはまた顔を赤らめて、たどたどしく言葉を綴った。
「そ、その、あの。今まで、なんとなく……安藤さんって、近づき辛い雰囲気だったんだけど……。話してみると、全然そんな事なくて。安心、したの」
そして。
ごめんなさい!と謝ったあと、彼女は小さな体をぎゅっと縮めて、私に頭を下げてきた。