田中の目の前には長髪のスレンダー美人が立っていた。
「どなたですか?」
「忘れたの?ひどいな。俣野明美。思い出した?」
俣野明美・・・。田中の頭の中はパニック状態だった。
「あの、俣野?」
驚くのも無理はない。俣野は高校時代付き合っていた女性。あの時はポッチャリで髪はショートだった。別れて以来久しぶりに見るが綺麗になっていた。
「買い物?」
「まぁ、スーツ買いに来たところ。そっちも買い物?」
「そうだよ。新作の服を買い行く途中。久しぶりだしそのへんでお茶しない?」
「いいけど。」
予想もしていなかった展開だった。まさか、付き合っていた彼女に会うとは思っていなかった。
「本当に久しぶりだよね。」
「そうだね。」
「何の仕事してるの?」
1番聞かれたくないこと。ホストをやっていると言えない。なぜなら自分自信そんなにかっこよくないし言ったら馬鹿にされ恥ずかしい思いをするに違わない。田中はそう思っていた。
「家の近くの工事で働いてる。」
小さな嘘だった。
「そっか、私は銀行の受け付け。お互い頑張ってるようだね。」
話しが続かない。
「買い物て何を買いに来たの?」
「服。」
また小さな嘘。スーツを買いに来たと言えばそこから話しが広がりホストをやっているのがばれる恐れがあるから仕方がない。
「こんな時間だ。じゃ、またね。」
用事があるのか俣野は慌てて帰って行った。田中はすこしホッとした。開放感に包まれた。
急に疲れがどっと押し寄せて来た。
「スーツはあとでいっか。疲れた。」
田中はスーツを買うの諦め家で休むことにした。
(ジリリン、ジリリン)
目覚ましが鳴った。
「もう、仕事か。」
あまり寝てない気がする。浅い眠りで疲れが取れていない。しかも、少し頭痛がする。二日酔いかもしれない。
「あはよう!今日もよろしくな。」
「よろしくお願いします。」
田中と違って斎藤さんは元気だ。
「うん?浮かない顔だな。どうした?」
「なっ、なんでもありません。掃除しないと。」
田中は逃げるように斎藤から離れた。
「変なの。」
掃除をしていても考えることは俣野のことだった。