奥から山田さんの声が聞こえてきた。
「田中、来てくれ。」
「はい。」
呼ばれた田中は奥の部屋に移動した。
「紹介するよ。右から加藤勝と町田勇気。」
「君が新しい子か。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
加藤さんは話しやすいタイプ。反対に町田さんは暗い性格なのか無口で絡みずらい。
「これで揃ったな。掃除をして店を開けるか。」
「ちょっと待って下さい。これで全員ですか?」
「そうだけど?」
いくら田舎のホスト店でも人数が自分を入れて五人とは少なすぎ。テレビの特番などで見た感じとは違う。
「よかったな。君はNo.5になる。気合い入れて頑張って。」
斎藤が激励の言葉を言った。しかし、田中の考えとはあまりにも違う世界に不安があった。田舎でホストをやるのも驚いていたがまさか人数が五人とは・・・。本当にこれでやっていけるのか早くも考えていた。
「田中君、町田の窓拭き手伝って。」
「はい、わかりました。」
田中は加藤に言われ窓掃除をやった。
「町田さんはホスト歴はどのくらいですか?」
「・・・・。三年。」
「三年ですか。」
「・・・。」
話しが続かない。
「掃除も終わったし店を開けるぞ。」
とうとうホストデビューだ。うまく行くか心配だがこんな田舎のホスト店だからレベルは低いはず緊張しなくても大丈夫。そう自分に言い聞かせた。
「さぁ、オープンだ。」
山田さんの掛け声でドアが開いた。
「す・・・すごい。」
田中の目には大勢の人。待ってましたとドアが開くなり雪崩のように流れ店の中はあっという間満席になった。
「斎藤さん、自分は何したらいいですか?」
「そうだな、指名があるまであそこに座って待ってて。」
「わかりました。」
新入りの田中には指名してくれる客がいない。だから、部屋の隅にある待合室ぽい所で待っているしかない。そんな田中を置いて他の四人は客と楽しく話したりお酒を飲んでいる。田舎だからと油断していた。同じ部屋なのに別世界だった。
「田中君、こっち来て!」
山田さんから声が掛かった。出番が来たのだ。
「よく、お店に来てくれる野田さん。」
「あなたが新入りの田中さん?よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
紹介された野田さんは綺麗な人だった。赤いドレスに高そうな指輪やネックレスをしていた。