面接が終わり田中はすぐに新聞配達を辞めた。最初は止めてくれることを期待していたが返事はOKだった。気付いていたけど田中自信どうでもよかったのかもしれない。一人減っても田中だから大丈夫だとみんな思っているはず。
「スーツ、一着だと不便だな。」
貰ったばかりの退職金で少し高めのスーツを買うことにした。買うのは高校生の就職活動以来だ。今のスーツが黒で赤いネクタイだった。少し派手なスーツを買って着たら目立つしいいかもしれない。そう、思い手に取ったスーツは白色。値段は八万円だった。退職金と言っても一日で終わる金額でスーツ一着でなくなる。でも、ホストになったらすぐに元を取れる金額だった。
「案外、着てみると似合うな。白いスーツに赤のネクタイ。」
いつもと変わらない姿なのに色を変えるだけでなんか違う自分になった気がする。
約束の時間になった。買ったばかりのスーツを着て髪をワックスで形を作り何年ぶりかのオシャレをした。
「よし。がんばるぞ。」
山田さんの家の前で気合いを入れチャイムを押した。
「君か、待ってたよ。準備は出来てるようだね。着いて来て店に案内するよ。」
そう言い歩き出した。
「あの、歩きで行ける距離なんですか?」
「うん。近いから。」
近いから?ここは田舎の栃木県。こんな所にホストが出来る店があるのか不思議で仕方がない。
「着いた。ここ、近いだろう?」
確かに歩いて5分ぐらいの距離。店はテレビなどで見た派手さはなく普通の飲み屋だった。
「本当にここですか?」
田中は疑って仕方がない。
「そう、何せ田舎だから客が中々来なくて。なんとか生き残っている感じだな。」
田中は間違った選択をしたと思った。
「突っ立てないで中に入って。」
「はい・・・。」
外見にはガッカリだが中はオシャレでホストな店ぽい。大きなカウンターにガラスのテーブル。棚にはいろいろなお酒がある。
「あと、少しでみんな来るから待ってて。」
「はい。」
田中は待つことにした。
少し時間がすぎ一人の男が店にやって来た。
「おはよう。あれ?新入り?」
「はい、田中智司です。よろしくお願いします。」
「俺は斎藤毅。ここのNo.1だ。よろしく。」
この人がNo.1。田中は一気に緊張した。見た目は今時の若い人だか丁寧で優しそうな感じだ。