「奈緒に言ったって、先は見える。
樹を気にして、勝手に気まずくして、勝手に離れて、
変な気を人に使って、自分の気持ちなんか見ないで
そんで、ごめんなさい。だろ?」

何も言えなかった

きっと将太の言うとおりのことをしていた

それに今だって

確かに同じようなことをしようとしていた

「それに俺が言うことじゃない
話を聞いていたって、相談されていたって、俺は蚊帳の外
奈緒と樹の二人だけの問題だ
少しは口を出すけど、どうするかは奈緒と樹次第だから」

俯く私の頭をポンポンと叩くと将太が立ち上がった

「さて、朝飯でも食うかな」

「ぁ。」

思わず私は将太の腕をつかんだ

「何?」

「…樹…起こしに…行ってく…るね…」

将太は私の頭をグシャグシャとなでながら笑顔で行ってこいと言ってくれた

いつも通り

いつも通り

将太の家を出てから、私は呪文のように心で唱えた

いつもはどうやって声をかけていたのか

いつもはどうやって樹に触れていたのか

いつもはどうやって樹の隣にいたのか

全部わからない

わからないけど、思い出せないけど

いつも通りにしなきゃ

樹の家はもう、すぐそこだ