樹は何も話さなかった

私は何も話さない樹ではない違うものに気を取られ始めた

風が吹く度に、刈られたばかりの草の青臭い匂い

川の向こう側に見える、少しの明かり

川の水面に映し出された欠けた月

あまりにもきれいで、ロマンチックで

私は少し時を忘れ、それに没頭した

「キレイ…」

「あぁ」

思わず声を漏らした私に樹は相づちをうった

また静かな時間が過ぎた

「あのさ」

「ん」

私はあやふやな返事をした

「俺、奈緒のこと好きだよ」