将太が樹を見つめながらバッターボックスの中に入っていった

樹は私の前で立ち止まった

「口。開いてるよ」

私を指さしていった

気付くと私の口はだらしなく開いていた

急いで閉じると樹はニコリと笑った

「どうしたの?」

やっと私はそれだけの言葉をを吐き出した

樹はそんなに打てる選手ではなかった

打率の二割ちょっとでどちかと言えば守備を認められ、今ここにいる

ましてやホームランなど打ったことはほとんどない

「んー。強いて言えば、塩のおかげかな?」

額を拭い笑いながら樹は答えた

「マジで!?」

将太の番なのに、そっちのけでまたこちらに戻ってきた

「いやいや。本気にすんなよ」

バッターボックスの方に将太を押し戻しながら樹は言った

「じゃぁ、もっと塩食べたら、ホームラン、たくさん打てるじゃん!!!」

私も続けて言った

「だから、冗談だって」

樹は少し呆れたように笑った

将太をバッターボックスに戻すとまた私の前で立ち止まった

「ほら!アホなこと言ってないで頑張れ!マネージャー」

アホなことを言わせる原因は樹だ

そう思いながら私と渋々、自分のことに集中した