女を見送った後、一人の男が俺に話し掛けてきた。

「よお〜クレイジーお前今夜もなかなかの収入だったじゃねーかあ」

「…………」

店長だ。

ニヤニヤとしながら、ネチっこい喋り方で近づいてくる。

「で?今日は愛子さん、何くれたんだ?」

「愛子さんって誰」

「おま、そりゃ無えんじゃねーの?さっきのお嬢様だよ」

「お嬢様って誰」

「…今夜お前が相手していたお客様」

「あれ愛子って名前だったのか。すんげーカワイイ名前だな。」

「バカかお前、お客様の名前くらいは必ず覚えとけって言っただろ。…で?愛子さん何くれたの?」

店長は一瞬呆れた顔になったが次の瞬間にはすでにニヤニヤ顔に戻って、「貰ったモンくれ」と言わんばかりに手を差し出してきた(実はこれも恒例だったりする)。


「…ん。時計くれた」

特にその腕時計に思い入れは無かったので、戸惑うことなく店長の手の平にそれを乗せた。
それを見るや否や高そうなグラサンをキラリと光らせて店長の頬が緩む。例のごとく恒例だ。

「なかなかのシロモノじゃねーか、へへへ、高く売れっぞーこれは…愛子さんもよくやるなあ、お前みたいなひねくれ者によお…」

「………全くだな。」


この世界は、愛子って女やこの若干ムカつく店長のように、「バーカ」と思わず言ってしまうような人間ばっかなのか?

小さい頃からホストクラブの世界を見すぎて、訳わかんなくなってきたな…。


「……じゃ、俺はもう上がるから」

「おうお疲れ。お前明日も学校だろ?ゆっくり休めよ〜」

「言われなくとも。」

俺はそんな感じでまた恒例のくちごたえをしながら、
ホストクラブの奥の方に入り込んで行った。