『悪いな、遊馬。

こんな時間に』


『いや、こっちこそすまない。』


もちろん、あんな時間に電話をしたことに対して謝ってるんだ。



『さっき、お前自分ちの周り自転車で走ってただろう?』


『え?』


『お前とすれ違った車、うちの車だ』


見たことがあると思ったのは学校で見たってことか?

月島はわざわざ探しに出かけてくれたのか?



『遊馬、沙羅は今、うちにいる』



『………………っ!』



言葉が出ない。

じゃあ、さっきの車に沙羅が乗ってたのか?


なら、どうして。

どうして俺は気づかなかったんだ。



『どうした?遊馬。

何も言わないのか?

それとも


……何も言えないのか?』


そんな月島の言葉にイラッとした。



『黙れ、月島。

それで沙羅は返してくれないのか?』


少しの沈黙のあと、なぜか受話器の向こうから笑い声が聞こえた。

そしてそのあと、月島は言った。



『残念だったな、遊馬。

お前に俺の大事な沙羅は渡せねぇーよ』