『ダメです、晴弥様。

3件とも沙羅様はいらっしゃっていないということでした』


瑞季の言葉に思わず舌打ちをした。

アイツはいったいどこにいるんだ…っ!


『俺は自転車でこの辺りを探してみる。

お前は沙羅が帰ってくるかもしれないから家で待機してろ。


それと森本を起こして車で探すように伝えてくれ』


『かしこまりました』


俺は小走りで静かに家を出る。

今、父さんと母さんに起きられては困る。


沙羅がいなくなったと分かれば偽装婚約のことがバレるかもしれない。


車庫から自転車を引っ張り出す。

もうここ何年か乗っていない。


自転車にまたがり辺りを見回しながら近所をウロウロした。

目は沙羅を探すのに一生懸命だが、頭は見つからなかったときのことを考えていた。


明日、母さんたちは家を出て行く。

でも残念なことに出発は正午近くだ。


前みたいに早朝に出て行ってくれたらありがたいのに。


なんとしても沙羅がいなくなったことは隠さなければいけない。

とくに母さんには。


どうする…俺。


まさか沙羅が逃げ出すとは思わなくて

想定外の出来事に俺はただただ、戸惑っていた。