水道の裏側にうずくまっていた柚は、タオルから顔を上げようとしなかった。
「何泣いてんだよ」
「…っ、嬉…しくて…っ」
「昔から嬉しくても悲しくても泣くよな、柚は」
…呆れた奴。
そう呟きながらも、俺は柚の髪を優しく撫でてやった。
「ん、こっち来てみ?」
「…っ」
「ゆーず」
ジャージ越しに伝わる、小さな温もり。
愛しくて、愛しくて…
―――…君は俺の、走る意味。
「日向…っ」
「…ありがとな」
腕の中に収まる柚を強く抱き締めると。
…その背中を撫でた。
「…柚」
「っ…え…?」
「…好きだ」
柚の、華奢な顎を軽く持ち上げて。
涙で濡れた頬を指でなぞると。
「…ん…っ」
――――…俺を包み込む風のように。
誰よりも愛しい君に、キスをした。