彼は仮病を使って学校を休み、私を家まで送った。


私が寝ている間に、電話で母親に事情と今夜通夜がある事を聞いたらしい。

ドアの前で立ち止まっていると、高瀬は中に入って制服と貴重品を持ってきてくれた。

もう少し待つように言われその通りにしていると、『うわっ。』という声とともに中から見たことのない中年の男が口元にあざをつくって駆け出してきた。
だらしなくひらかれたシャツの間から、白くて疲れきった肌が見えた。

汚い。

吐き出しそうな嫌悪感から、気づいたら声に出していた。


昔の夫の通夜の日に、これか。
力なく、笑った。


何だかもっと笑ってやろうという気になり中に入ってみると、廊下に、ポケットに入るくらいの小さな袋がいくつか落ちていた。

中身が少しこぼれている。


——あぁ これ 私

——見たことある‥



魔法の、白い、粉。







奥へ進みリビングの扉をあけると、裸の母親が涙を流して高瀬に抱きついていた。


親子そろって、やることは同じ、か。

高瀬はまた、抱き締めてあげるのかしら。


そう傍観していると、パンッという音と共に、母の頬が赤く染まった。


彼女は心底驚いていた。

彼に拒絶されたのは初めてだったのだろう。



高瀬は茫然とする彼女に喪服をばさっと捨てるように渡した。


そして私を見つけ、『外にいろって。』と声を掛けると、母親がこちらに顔を上げた。
私を見て、彼女は一瞬怯えたような目をした。



母親が口を両手でおさえて泣きはじめるのを見て、外に出た。

また奇声が聞こえた気がした。


高瀬は私の頭に、ぽんと手を乗せた。






――お母さん、私を殺して、悲しみは消えましたか?


自分を殺して、最後に何を見るつもりですか?