* *


季節が移ろぐ時のように、
気持ちの始まりや終わりはいつも輪郭が曖昧だ。


後で思い返せば、彼の瞳に捕えられた全てが合図だったような気がする。








それは、私が窓から視線を戻そうとした一瞬に起こった。



細く開けたガラス窓のすき間から、たった一枚だけ桜の花びらが入り込んできたのだ。
すーっと、音も立てず。


まず頭に浮かんだのは、
あの時投げた花びらが、戻ってきたのだということ。


馬鹿らしい、うっすら笑ってその思考をかき消して再び前を見ると、高瀬嘉人の目に吸い込まれた。



花びらは、私の足元におちた。



どうして私を見ているのか、まったくわからなかった。



恐ろしかった。

その目は、恐ろしいほどの魅力をもっていた。



これ以上見てはいけないような、でももっと見ていたいような、おかしな気持ちになる。


いや、見てはいけないのだ、その中には、私をつかんでもう離さないものが生きている。

そう、生きている。


その時間だけ、その目だけが、唯一彼の生きている部分だと感じた。