やれやれといった感じで先生は口を開く。


『彼女はいません。』


『えー!!』

クラスメイト達は「つまんないのー」といいながらまた笑う。


『じゃあタイプは?!』

男子生徒はまだめげない。
すると高瀬が真顔で言う。

『なんだ藤谷、お前俺の彼女になってくれるのか?』

藤谷は一度吹き出してから、同じように真顔を作る。
『わりぃ、俺にはA組の西野がいるからさ…』

『俺だってやだよ』

二人のコントのようなやりとりに、教室の笑い声はなかなかやまない。


隣で『高瀬先生も冗談とか言うんだー』
と女子が驚いている。


『先生、本当はどんな子がタイプなのー?』

その子が鼻にかけた声で再び質問を投げかける。

高瀬は少し考えて口を開いた。

『そうだな。・・年上だな。』


『あーっ確かに好きそう!』

私は楽しそうにはしゃぐ女子を横目に一緒に微笑みつつ、正直少し自分の胸がざわついているのに気付いた。



年上。



嘘なのかもしれないが、そうだとしてもそれは自分に近づく可能性のある女生徒を離すためであって、
どっちにしろ私達は邪魔なガキって事だ。



自然とため息がもれる。







恋をしてるわけじゃない。

これは大人の男への憧れだ。

単純な、ありがちな、
他の子達と同じ、

恋に似た、憧れ。









空を見た。



澄んだ水色が、なんだか寂しそうに見えた。