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4限は古文の時間だった。私は勉強しながら、高瀬という男を観察していた。


話し方は相変わらず淡々としている。

あまり表情を変えないが、
その顔でたまに冗談を言うようになった。


授業中はメガネをしていて、それが少し隠れるくらいの長さの前髪。
格好つけているというより、切るのが面倒なのだろう。

指輪はしていない。


最近一つ発見したのは、高瀬という男は、良く見ると端正な顔立ちをしているということだ。


その時、ふと思いついた。

もしかしたら。それを自分でもわかっているのかもしれない。
あんなふうに私に触れたのは、女子高生をからかってみたかったから?
実はすごく女に慣れている可能性もある。

そんな仮定をしてみると、アコたちが言っていた廃人オーラも大人の男のけだるさ、一種の色気に見えてきて、本当にいるかどうかわかりもしない女達の姿が思い浮かんだ。

そしてその女達と同じような扱いを受けたのかと腹立たしさを覚え、我に返る。

こんな風に、授業のたびに私は自分の頭の中で高瀬に新しいアイデンティティを加えてみては、勝手に腹を立てたり笑ったりしているのだった。



『はい今日はここまでー。
・・・ってやべ、あと5分余っちまった。
じゃぁ今日やったところで何か質問はないか?』


高瀬がそう問うと、一番前列の明るい髪の男子が勢い良く手をあげる。

『先生先生、彼女いないんすか?!』

『こら、授業の質問しろよ。』


あはは、と、くだけた雰囲気で生徒達が笑う。
あきれ顔の先生と、かまわずくらい付く男子生徒。

皆が、興味津々な様子で高瀬の反応を待った。