『佐野セーン、日誌とりにきてやったぞーい。』
『おい塚地!職員室にいる時くらい敬語使え敬語!』
『だーから佐野ちゃん!俺はツカヂじゃなくてカジだってばー。』
私は担任と亮太のそんなやりとりを無視して職員室内を見渡した。
「高瀬」と書かれた机を見つけるがまだ空席だった。
* * * *
そう、あの国語教師の名だ。
あの後、改めて教壇に立って自己紹介などをしたのだが、言動もやはり淡々としていた。
教師というよりも、教師になろうとしているように見えた。
初めて見た時の、様々な物が抜け落ちた、色のついていない人形に、「教師」というアイデンティティをくっつけた。が、本人はそれを扱い慣れない。そんな感じだ。
彼は自分の名を黒板に書くと、すぐにその前に立ちふさがってしまったので、私が彼の下の名を知ったのは、その授業が終了してからだった。
チャイムが鳴り、前の席の生徒が立ち始めるので、私は右や左に身を傾けて、黒板を見た。
「よしひと?」
そして人に見られないように、ノートにその名を小さく書き写した。
≪高瀬嘉人≫と。
『おい塚地!職員室にいる時くらい敬語使え敬語!』
『だーから佐野ちゃん!俺はツカヂじゃなくてカジだってばー。』
私は担任と亮太のそんなやりとりを無視して職員室内を見渡した。
「高瀬」と書かれた机を見つけるがまだ空席だった。
* * * *
そう、あの国語教師の名だ。
あの後、改めて教壇に立って自己紹介などをしたのだが、言動もやはり淡々としていた。
教師というよりも、教師になろうとしているように見えた。
初めて見た時の、様々な物が抜け落ちた、色のついていない人形に、「教師」というアイデンティティをくっつけた。が、本人はそれを扱い慣れない。そんな感じだ。
彼は自分の名を黒板に書くと、すぐにその前に立ちふさがってしまったので、私が彼の下の名を知ったのは、その授業が終了してからだった。
チャイムが鳴り、前の席の生徒が立ち始めるので、私は右や左に身を傾けて、黒板を見た。
「よしひと?」
そして人に見られないように、ノートにその名を小さく書き写した。
≪高瀬嘉人≫と。