すると、返事をするように
“チーン”とトースターが鳴った。


『お母さん、焼けたよ。』

声をかけるが、視線はこちらを向かない。


『ごめん、ぼーっとしちゃっててさ、今パンにのせるの作るからね。』


『置いといて、後で食べるから。』


彼女はタバコを一本吸い終えると、雑誌に目を移す。
ページをめくる指のネイルが剥げている。


その姿を、私はしばらく黙って見つめていた。



やはり、夢の中の母親とは別人に思えた。



(……一緒に、食べようよ。)


この言葉が、喉まで上がってきたが、飲み込んだ。


一緒に住んでいるこの“33歳の女の人”は、父親似の私の顔をなるべく見ないようにしている。
だから向かい合って食事するのは気が進まない。

わかってる。
わかってる。

私は言い聞かせるようにして、卵をフライパンに落とした。