「…るせぇぞ、……ネコ」


実際は、一晩中、
か細く、不安げな仔猫の声がベッドの下からしていたのだが、アルコールでぼんやりしていた男には
聞こえていなかったようだ。



“にゃあ”



「…だから、るせぇって」


ふらりと立ち上がりベッドに腰かける。

スプリングが軋んで、ベッドの下の猫が不安な声をだした。


男は前髪を掻きあげ、ベッドの下をのぞき込んだ。


壁にぴったりとはりついて、
小さくなっている、
白黒のまだらの仔猫がこちらを睨んでいた。



「…どっから入ったんだよ」



不機嫌な声をだすと、ビールを半分ほど飲みほす。

吸いがらでいっぱいになった
灰皿に無理やりタバコをねじ込んで、
床に膝をついた。



「…出てこい。……ネコ」



ベッドの下に手を伸ばし
指でトントンと床を叩く。



“にゃーぁ”



威嚇とは程遠い
怯えた声で
小さな歯をみせて唸っている。

「捕って喰うワケじゃねぇよ……うるせーな…」


猫を引っ張り出すことを
諦めると、ベッドの下をのぞき込んだまま、ビールを一口。


しばらく、お互いに無言で睨み合う。


男は缶ビールで頬を冷やしながら、感情のない目で猫をながめている。


猫はヒゲもしっぽもピンと張りつめ、置物のように動かない。


「…勝手にしろ」



鳴かないならうるさくない、
そう考えた男は
ベッドの下でガチガチになっている猫の存在を
忘れることにした。



ドサッと勢いよくベッドに横になる。
スプリングがさっきより
さらに大きな音で軋んだが
猫はなんの反応もしなかった。

目を閉じると、
アルコールが頭の中でグルグルとまわる。

軽い吐き気を次のタバコの煙で押さえ込んだ。

煙がまっすぐ、天井に
のぼって行くのを
ぼんやりと眺めていると、
だんだん瞼が重たくなって行く。



しばらくして、男がスースー寝息をたて始めた頃、
ベッドの下からおそるおそる、仔猫が顔を覗かせた。