「……嫌われたな、自業自得だ」
そちらを見れば、琴音が先ほど図書室で見かけた居眠り男の姿がある。
眠そうな目をしているが、しゃん、とたった姿を見れば、それなりに背が高い。
(とは言っても、黒崎ほどではないが)
やたら変色した古そうな文庫本片手に図書室の施錠をしながら、面倒くさそうに金井に答える。
「うわ、倉谷(くらたに)ちゃんまでそんなこと言うわけ、ヒドいね、お友達なのに」
どうやら相当のお調子者らしい金井。
そんな金井の言葉をさらっと受け流しながら、倉谷は施錠を済ませると、さっさと鍵と本を片手にその場を去ってしまった。
「んー、どいつもこいつもつれないね。
あ、そだ。 琴音ちゃんも早く教室帰ったほうがいいんじゃない?
もうすぐ午後の授業はじまるよ」
金井が言うのと同時に、昼休み終了の予鈴がなる。
「いけない、俺次の予習してないんだよなー」
それじゃ、お先に、と叫ぶと、金井は廊下を全速力で走り出す。
何度も人にぶつかり、その度に大声で誤りながら二年の教室のほうへと消えていった。