「面倒くさいなー、もう。 これくらい自分でやればいいのに」

高く積みあがった本の所為で視界が悪いうえに、足元までふらふらしながら、琴音は人通りの多い、昼休みの廊下を一人で歩いていた。


「鵜月さん、悪いけど、この本、図書室に返してきてくれる」

「え、これ全部ですか」

「俺も手伝いたいのはやまやまなんだけど、仕事があるんだ。 ね、秘書でしょ、君」


あんな笑顔(といっても目は笑っていなかったけれど)で言われれば、断れるわけがない。

言われるがまま、何に使ったのかわからない、室外不出のシールの張られた大量の本たちを図書室へと運ぶ使命をまっとうする。

これって、秘書じゃなくて雑用じゃ、という疑念をなんとか振り払いながら歩いていると、ようやく目的地が見えた。

「はじめてきたな、図書室。 失礼しまーす」