藤本が出て行ったのを確認すると、速水は後ろ手で扉を閉め、目をつぶり、ため息をついて扉にもたれ掛かった。

「あの、会長……」

「君、鵜月さんだっけ。

喋ろうとした?」

ぱっと目を開いた速水は朝やさっきみた穏やかな目ではない。
冷たい光を潜めた鋭い視線が琴音を射る。

怯んで返事を返せないでいると、速水はまた下を向いて溜め息をつく。

「ま、自分で蒔いた種、か」

顔を上げた速水の目は穏やかに戻っていた。

「……そういうわけで、鵜月さん。

君、今日から俺の秘書だから。

何かしようとしたら、すぐわかるから」

さっきまでは何だったのかと言うほど屈託の無い笑みを浮かべると、
五限目の始まるチャイムが鳴った。

今日二回目の遅刻。