聖はその言葉に「ありがとう」と囁き、女性の頬に礼代わりのキスをした。

「またのご利用を…」

「ええ、またね」

いつもの言葉を交わして聖はその公園で女性を見送った。

完全に女性の姿が見えなくなった後に、聖は自分の口を左の手の平で拭う。

そして右の手で掴む数枚の万札を数えた。

「6万か…」

聖の抑揚のない呟きは夜の風にさらわれる。

店に渡す基本料8割と指名料をあわせた万札1枚をわかるように二つに折り、残りの5万とともに無造作に財布にしまった。

そしてまたベンチに座り、携帯から終了報告と翌日事務所に行く旨をメールで送信する。

ポケットから客の前では吸わないタバコを取出し、100円ライターで火をつけた。

メンソールの煙をゆっくりと吸い込んで、大きなため息のように吐き出した。

タバコ一本分の休憩の後、聖は大通りを目指す。

大通りにつく少し前で見つけたタクシーを片手を上げて止める。

開いたドアから体を滑り込ませ、行き先を伝える。

到着するまでの30分、聖はタクシーの後部座席に疲れた体を深く預けた。