「私、さっきまでは何も知らなくて…本当に幸せなんだと思い込んでました…」

聖はミスズの肩を抱いて自分に引き寄せた。

ミスズは聖の肩に頭を預け瞳を閉じた。

涙がまた一雫、頬を伝う。

「本当にこんなところ…来なければ良かった…」

聖はミスズの涙を指でそっと拭う。

「…そうですね」

呟いた聖にミスズは「ありがとう」と微笑んだ。

何を言ってもミスズの気を紛らわす事は出来ないと、聖は口を開かない。

ただミスズの体温だけを感じていた。






ミスズの柔らかな髪が自分の顎を撫でたのに聖はハッと我に返る。

肩が軽くなり、隣に顔を向ける。

「お仕事でここに来たんですよね」

ぎこちなく笑うミスズに聖は無言で頷いた。

「私は試されているんでしょうか?」

ミスズの言葉が聖には理解出来ない。

困った顔をする聖の頬をミスズの細い指が撫でる。

「私は彼に応えます」

ミスズはそう言って聖の唇に指をあてた。

「…キスして下さい」

聖はそう言いながらも悲しそうに微笑むミスズを哀れに思った。