聖の言葉にミスズは俯きながら口を開く。

「そんなつもりはもとからないんです。もしも…嫌なら帰っても構わないんです。それは私のお金じゃないですし…だから受け取ってもらわないと困るんです」

今にも泣きだしそうな程、震える声でそう言ったミスズに聖はかける言葉が見つからない。

どうしようか…と悩んでいるところにコンコンと扉をノックする音が聞こえた。

ビクッとミスズが体を硬直させるのがわかる。

聖は扉を見つめる。

コンコン――

再び聞こえるノックの音にミスズは仕方なく返事をする。

「…はい」

『ルームサービスをお持ちしました』

扉の向こうから聞こえた男の明るい声にミスズは首を傾げる。

「頼んでませんけど…」

ミスズは扉に近寄り不思議そうにそう言った。

明るい声を変えずに扉の向こうから男がそれに答える。

『狩野様からのご注文です。こちらに届けるようにとのご指示でしたが』

その答えにミスズは心底悲しそうな顔をして扉を開けた。

「失礼します」とホテルの制服を来た男が銀の食器をのせたワゴンを部屋の中に運び入れる。