客を待つ聖の前を家族連れやカップル、紳士淑女が口元に笑みを湛えながら通り過ぎていく。

誰も聖に目を止める者はいない。

この中に本当に幸せで笑っているのはどれくらいいるんだろう?

あまりにつまらない事を考えた自分を嘲笑うように口の端を上げ、聖は俯いた。

ふと、下を向いたままの視界に白いパンプスが入ってくる。

顔を上げた聖にサングラスをかけた女性が声をかける。

「聖…くん?」

濃いサングラスのせいか年の予想がつかない。

声も若いともそうでないともとれた。

聖は「はい。ミスズさんですか?」と営業用の極上の笑みを浮かべた。

女性は表情をかえずに頷き、「ついてきて」と歩きだした。

聖はその対応に木村を思い浮かべながら女性の後を追った。

横に並ぼうとする聖に女性が小声で不機嫌さを示す。

「横には並ばないで」

聖はいつもと違うタイプの客に抵抗をかんじながら、女性の少し後ろを歩いた。

彼女はロビーを突っ切りエレベーターのボタンを押した。

すぐに大きな扉が開く。

「乗って」