聖がそんな事を考えていると、隣の部屋から電話の鳴る音が聞こえてきた。

2コール後に木村の応対の声が聞こえる。

「ありがとうございます。i‐LOVEです」

その電話に多少の期待を抱き聖は木村の声に耳を済ます。

木村の応対の調子がいつもと違う気がした。

どうやら客は新規の客で今日、最初から延長を最大に使い5時間のデートを要求してきたようだった。

「今お伺いした番号に折り返しご連絡します」

それを最後に木村の声が途絶えた。

少しして聖のいる部屋の扉が開く。

木村は入り口の扉を閉める事もなく、よく通る声で今の電話の内容を伝えた。

「本日19時、新規で5時間なんですがどうですか?帰りは深夜になりますが、聖くんは翌日は15時から2本でしたよね。」

長いな…

正直そう思った。

延長を断り夕食を食べて帰ろうと思っていた聖は、速答が出来ない。

少しの沈黙の後、木村が口を開く。

「無理なら他に回しますが」

感情の読み取れない木村のその言葉に聖は俯く。

木村の機嫌を損ねた気がしたのだった。