電源を入れたところでスーツの青年が話し掛けてきた。

「これから仕事?」

聖はゲームのスタートボタンを押さずにその青年を見る。

「…当日があれば。…湊さんは土日休みなんじゃ?」

湊と呼ばれたスーツの青年は上品な笑顔を見せる。

「俺は休日出勤。あ、本業のね。で、ここに来たの。もうすぐ仕事に行くけどね」

聖は「そうですか」と呟き湊の手元の缶ビールに視線を向ける。

それに気付いた湊は大人びた目で聖を見据えて軽く笑った。

「俺、酔わないから。それとテンション上げるために…ね」

そう言った湊に聖は口の端を軽く上げて応え、ゲーム機の画面に視線を戻した。





しばらくして湊が立ち上がる。

「んじゃ、俺時間だから。またね、聖くん」

聖は手を止めて湊を見上げる。

「はい、また」

聖の声に湊は右手を上げて応え、扉から出ていった。

一人になった待機室で聖はこのまま帰ることになるかな…と想像する。

時刻も17時半だし、18時になれば木村も帰るから当日の連絡が来ることもない。